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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)5166号 判決 1960年10月21日

主文

一、被告株式会社は、原告笠原伸元に対し、三八二、三七八円、及びこれに対する昭和三五年五月一八日から、支払ずみに至る迄、年六分の金員の支払をせよ。

二、被告株式会社は、原告杉田毅に対し、三一八、一七〇円、及びこれに対する昭和三五年二月二七日から、支払ずみに至る迄、年六分の金員の支払をせよ。

三、訴訟費用は、被告株式会社の負担とする。

四、この判決は、仮に執行することができる。

事実

原告等訴訟代理人は、主文第一ないし第三項同旨の判決、及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として

第一  被告株式会社は、株式会社丸弥商店(以下丸弥商店という)にあて

(1)  昭和三五年一月一六日、金額一五五、九五〇円、満期同年五月一日、支払地及び振出地、いずれも東京都中央区、支払場所株式会社第一銀行京橋支店なる約束手形一通

(2)  同年一月三〇日、金額二二六、四二八円、満期同年五月一七日、支払場所株式会社八十二銀行東京支店、その他の手形要件(1)に同じなる約束手形一通

を振出し、

(3)  丸弥商店は、原告笠原伸元に、右約束手形二通を、同原告は、同年一月一八日訴外株式会社第一銀行本所支店に、(1)の約束手形を、同年二月二日、訴外株式会社住友銀行浅草橋支店に、(2)の約束手形を、裏書譲渡し、

(4)  株式会社第一銀行本所支店は、(1)の約束手形を、右満期の翌日、株式会社住友銀行浅草橋支店は、(2)の約束手形を、右満期、それぞれ右支払場所に於て、被告株式会社に、支払の為これを呈示したところ、被告株式会社は、その支払を拒絶した。

(5)  同原告は

(A)  同年五月四日株式会社第一銀行本所支店から遡及をうけ同銀行支店に対し、一五五、九五〇円を支払つて、(1)の約束手形を、

(B)  同年五月一八日、株式会社住友銀行浅草橋支店から遡及をうけ、同銀行支店に対し、二二六、四二八円を支払つて、(2)の約束手形をそれぞれ受戻した。

よつて原告笠原伸元は、被告株式会社に対し、右支払金合計三八二、三七八円、及びこれに対する、後の受戻の日である昭和三五年五月一八日から、支払ずみに至る迄、手形法所定の年六分の利息の支払を求める。

第二  (1) 被告株式会社は、丸弥商店に、受取人欄を補充すべき権限を与えて、昭和三四年一一月九日、金額三一八、一七〇円、満期同年二月二六日、支払地及び振出地、いずれも東京都中央区、支払場所株式会社八十二銀行東京支店なる約束手形一通を振出し、

(2) 丸弥商店から、その交付をうけた原告杉田毅は、右補充権に基づき受取人を、杉田毅と補充し、

(3) 同原告は、昭和三四年一一月一一日、株式会社三和銀行東京支店に、これを裏書譲渡し、

(4) 同銀行支店は、右満期支払場所に於て、被告株式会社に、支払の為これを呈示したところ、被告株式会社は、その支払を拒絶した。

(5) 同原告は、株式会社三和銀行東京支店から、遡及をうけ、同年二月二七日、同銀行支店に対し、三一八、一七〇円を支払つて、これを受戻した。

よつて原告杉田毅は、被告株式会社に対し、右支払金三一八、一七〇円、及びこれに対する、右受戻の日である昭和三五年二月二七日から、支払ずみに至る迄、手形法所定の年六分の利息の支払を求める為、本訴各請求に及んだ。

被告株式会社の原告杉田毅に対する抗弁につき、その主張事実を否認する、と述べた。

証拠(省略)

被告株式会社訴訟代理人は「一、原告等の各請求を棄却する。二、訴訟費用は、原告等の負担とする。」との判決を求め、原告等主張の

第一の事実を、すべて認める。

第二(1)(2)の事実を、否認する。

(3)の事実は、知らない。

(4)の事実を、認める。

(5)の事実は、知らない。

被告株式会社は、昭和三四年一一月九日、丸弥商店にあて、受取人を除く、その他の手形要件を、原告等主張の第二(1)とする約束手形を振出したものであつて、丸弥商店に対し、受取人欄白地の補充権を付与して、振出したものではない。しかるに丸弥商店は受取人欄に「株式会社丸弥商店」とある記載を抹消し、被告株式会社の承諾を得ないで、「杉田毅」と記入した。従つて被告株式会社は、丸弥商店に対し、手形上の債務を負うが、変造後の所持人である原告杉田毅に対しては、何等の債務を負担しない。

原告杉田毅に対する抗弁として

一、丸弥商店は、昭和三四年一一月一八日、被告株式会社にあて

(一) 金額二五万円、満期昭和三五年二月二〇日、支払地及び振出地いずれも東京都墨田区、支払場所株式会社富士銀行本所支店なる約束手形一通

(二) 金額二五万円、満期同年二月二三日、その他の手形要件(一)に同じなる約束手形一通

を振出した。

二、原告杉田毅は、丸弥商店が、被告株式会社に対し、以上合計五〇万円の約束手形金債務を負担していることを知り、即ち、被告株式会社を害することを知りながら、第二(1)の約束手形一通の裏書譲渡をうけた。

そこで被告株式会社訴訟代理人は、昭和三五年九月二六日の本件口頭弁論期日に於て、原告杉田毅訴訟代理人に対し、第二(1)の約束手形金債務三一八、一七〇円と、一、(一)(二)の約束手形金五〇万円の債権とを対当額につき、相殺する旨の意思表示をした。従つて同原告の本訴請求は、すべて失当である。と述べた。

証拠(省略)

理由

原告笠原伸元主張の第一の事実は、すべて被告株式会社が自白したところである。そしてこの事実に基づく、同原告の本訴請求は正当であるから、これを認容する。

原告杉田毅の請求につき、判断する。

検証の目的としての甲第三号証の一の記載、証人青木弥三郎の証言及びその証言により真正に成立したと認める乙第二号証の記載証人塚原洋の証言によれば、被告株式会社は、商品代金支払の為、昭和三四年一一月九日、丸弥商店にあて、第二(1)記載の手形要件を記載した約束手形一通を振出し、丸弥商店は、原告笠原伸元に対し、その割引を依頼しようとしたが、同原告は予てから、丸弥商店に対する割引の為に、受取人欄白地の約束手形を要求していたので、丸弥商店は、受取人欄に「株式会社丸弥商店」と記載されたものをインク消しで完全に抹消し、同原告に交付し、同原告は、それを受取人欄白地の約束手形として受取り、親戚の原告杉田毅をして、それを割引かしめ、その対価を丸弥商店に交付し、同原告の名を、受取人欄に記入したことが認められる。被告株式会社は、かような場合変造前の署名者として、振出人としての責任がないと主張する。約束手形の振出の効力は、その性質により、決しなければならない。約束手形の振出とは、振出人が、独り受取人に限らず手形団体なる不特定多数の債権者に対し、一定の金額を支払うべき債務を、負担する意思表示であるということができる。

尤も、約束手形の振出人が、裏書を禁止して、約束手形を振出した場合、その手形は、指名債権譲渡に関する方式及び効力を以てのみ、これを譲渡し得ることは、手形法第七七条第一一条第二項の規定するところである。しかしながら、第二(1)の約束手形は、振出人である被告株式会社が、かように裏書を禁止して、振出したものではないことは、明らかである。そうすると、被告株式会社は、その受取人である「丸弥商店」の記載が抹消され、被告株式会社の承諾なくして、受取人欄に「杉田毅」なる文字が記入されても、その所持人である原告杉田毅に対し、右約束手形金の支払義務を免れることはできないと、謂わなければならない。この解釈は、手形法第七七条によつて準用せられる。同法第六九条後段の解釈と、矛盾するものではない。被告株式会社の悪意の抗弁につき、判断する、その成立に争のない乙第三号証の記載によれば、丸弥商店は、昭和三四年一一月一八日、被告株式会社にあて、その主張の約束手形二通を振出し被告株式会社に対し、合計五〇万円の手形金債務を負担していることが認められる。しかしながら、原告杉田毅が、右事実を知り被告株式会社を害することを知りながら、第二(1)の約束手形の裏書譲渡をうけたことは、これを認めるに足りる証拠資料がない。そうすると、右悪意の抗弁は、これを採用することができない。

前記甲第三号証の一、成立に争のない同号証の二の各記載及び弁論の全趣旨によれば、原告杉田毅主張の第二(3)(5)の事実を認めることができる。(4)の事実は、被告株式会社が、自白したところである。

そして以上判示の事実に基づく原告杉田毅の本訴請求も正当であるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき同法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を適用して、主文の通り、判決する。

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